第4話:本社に対する債権債務の相殺

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「Rino's Tax Diary」

第4話:本社に対する債権債務の相殺

お昼まであと30分ぐらいだ。暑くて外に出る気がしないな~と思いながらリノが作業していると、「ちょっと今いいですか?」といいながら増川さんがまたリノが作業している部屋に入ってきた。
「はい。どうぞ。」とリノは言ってメモを取り出した。
「先程伺った、親会社からの付替え費用の件とちょっと関連しているんですが、うちはグループ会社間でお互いに経費を立て替えるケースがよくあるんですよ。例えば、うちが台湾の親会社のために何か物を買って経費を支払うこともあれば、逆に台湾がうちのために立て替えて支払うこともあるんです。こういった経費はお互いに後で精算しますので、うちの帳簿にはとりあえずIntercompanyの未収入金と未払金が計上されているのはご存知ですよね。」増川さんは続ける。
「うちってそれとは別に台湾にロイヤリティを支払っているじゃないですか。今度、台湾にロイヤリティを支払う際に、同時にこのIntercompanyの未収入金と未払金も相殺したいんです。未払金が未収入金よりちょっと多くなるように相殺すると、差額をこっちが支払うことになるじゃないですか。その支払いをロイヤリティの支払いと同時にやりたいんですけど、いいですか?」ちょっとややこしい話だ。
「御社の場合、ロイヤリティの未払分はIntercompanyの買掛金勘定に計上していますよね?」そういいながら、リノは試算表を確認した。
「ええ。ロイヤリティの未払分は立替経費の未払分とは勘定科目を別にして管理しています。つまり、ロイヤリティの未払分は買掛金勘定、立替経費の未払分は未払金に計上しているということです。」
「それならば大丈夫ですよ。」リノは答えた。
「もし、ロイヤリティの未払分も立替経費の未払分も台湾の親会社に対するものだからと言って、勘定科目を一緒にしてしまうと、Intercompanyの未収入金と相殺した時に、ロイヤリティと立替経費のどちらをいくら相殺したのかわからなくなってしまいますよね。そうすると、相殺した分はすべてロイヤリティの支払いとみなされて全部に10%の源泉税がかかるリスクがあるんですよ。一見、相殺というと実際に支払っていないから関係ないように見えますけど、相殺により債務が消滅する=“支払い”に該当しますから注意する必要があるんですよね。」とリノは補足した。
「なるほど。じゃあ、うちの帳簿はちゃんとIntercompanyの買掛金と未払金に分けてあって正解ですね。」増川さんはほっとしたようだ。
「ええ。大正解です。過去に別の会社で今お話ししたようなことがあって、何の相殺なのかでちょっと問題になったことがあったんです。その会社は支払い先がアメリカだったので、租税条約を提出していたおかげで、最終的には免税で通せたのですが、御社の場合、台湾の租税協定でロイヤリティは免税になりませんから、こういう場合、相殺した金額について10%の源泉がかかってきてしまうから怖いですよね。」リノはおしゃべりなので、つい他のケースも話してしまう。
「ふむふむ。よかった。ありがとうございます。ではこれから支払いの手続きに入ろうかな。」そう言って増川さんは忙しそうに部屋を出て行った。
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