第20話:デジタル課税_vol3

国際税務の最前線を紹介する
「Rino's Tax Diary」

第20話:デジタル課税_vol3

お昼休憩から戻ったリノが一息ついていると、佐々木さんが紅茶を運んできた。
「ところでデジタル課税の2つ目の柱って何ですか?」佐々木さんは興味津々で先を促す。
リノは出された紅茶を横目に話し始めた。
「第二の柱は軽課税国へ利益が移転するのを防止するためのルールで、全世界共通の認識として最低税率を15%に定めるものです。そもそもこのルールは、例えば特許権などの知的財産権をタックスヘイブン等の低税率国に所在する子会社に人為的に移転させて課税逃れしている事象に対処するために決められたものです。」
「それって多国籍企業が無形資産をアイルランドとかに集約しているパターンですよね。」佐々木さんが口をはさむ。
「そのとおりです。」リノは続ける。
「このルールは連結売上高が7億5,000万ユーロ(日本円だと1,000億円になりますが)以上の多国籍企業に適用されるのですが、実効税率が15%以下の子会社の所得を最終親会社に合算し、15%まで追加課税を行う制度になります。因みに実効税率は国ごとに算定することになります。」
「なるほど・・・。かなり厳しいルールですね。でも、もし進出先の子会社でちゃんと事業を行っている場合で、たまたま進出先の国の実効税率が15%以下だったら、ペーパーカンパニーじゃなくても課税されてしまうのですか。」佐々木さんは頭の回転が速く間髪入れずに質問してくる。
「もうお気づきかと思いますが、この所得合算ルールは、タックスヘイブン税制と類似しています。ただ、この所得合算ルールはタックスヘイブン税制のように適用除外要件が設けているわけではないので、あくまでも実効税率で判定されることになります。ただ、企業が実体のある事業を行っている場合、実際に上乗せの課税額を計算する際に、有形固定資産の償却費や人件費の一定額が控除されますので、多少は配慮されているみたいですよ。」リノが答えると、佐々木さんは頷きながら「そうですよね~。ペーパーカンパニーと事業会社を一緒くたにするのは解せないですよね。」と言った。リノは続ける。
「タックスヘイブン税制が自国の法人税率まで課税されるのに対して、この所得合算ルールは15%まで課税される点が異なります。いずれにしてもこの所得合算ルールは、最終親会社の所在地国でこのルールを導入することが前提になります。言い換えると導入されていない国だと適用することができませんので、支払国において損金算入を否認する又は源泉税を課すなどの代替ルールが適用になりますが、日本は所得合算ルールを適用すると思われますので、代替ルールについてはあまり気にしなくて良いかと思います。」リノは補足した。
「制度の概要はなんとなくわかりました。うちは本社がUSの日本子会社なので、日本の実効税率は15%を優に超えていますから、本社として所得合算ルールについては気にしなくてよさそうですね。」佐々木さんは確認するように聞いてきた。
「そうですね。日本の実効税率は約34%で世界でも高い方ですからその点は問題なさそうです。」リノはそう言いながらフルーツと花の香りがいっぱいの紅茶をいただいた。
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発行者:坂下国際税理士法人