第18話:デジタル課税_vol1

国際税務の最前線を紹介する
「Rino's Tax Diary」

第18話:デジタル課税_vol1

今日、リノは月次のBook reviewのため、アメリカ系の産業機器の輸入販売を行っているClientの会議室に訪問している。
「最近、ニュースや新聞でデジタル課税のことが取り上げられているのですが、うちにも関係してくる話なんでしょうか?」と佐々木さんはコーヒーをテーブルに置きながらリノへ話しかけてきた。
「確かに。折に触れてデジタル課税のことがメディアで取り上げられてますね。現在大枠が決まった段階ですので、詳細は段階的に決まっていくのかと思います。」リノは軽くお礼を言って、早速出されたコーヒーカップを手にしながら続ける。
「これだけ経済がグローバル化して、さらにデジタル取引が増えてくると、いわゆる「PEなければ課税なし」という国際課税のルールの枠組みだと、ローカルで沢山稼いでいるにもかかわらず、子会社や支店などの固定的施設がないことを良いことにローカルに課税権がないのは、おかしいんじゃないかというところからデジタル課税の枠組みができてきたのですよね。」
「いわゆるGAFAとかが過度な節税目的に軽課税国を使ったストラクチャーを使って世界中で税金を払っていないことが起因しているんですよね。」佐々木さんはベテランの外資系企業の経理担当者らしく、普段から経済情勢についての反応が早い。
「おっしゃるとおりですね。デジタル課税は大きく2つ柱があるのですが、まず、第一の柱として、支店や子会社などの物理的な拠点がない市場国にも課税権を認めて利益を配分しようというルールがあります。」リノは続ける。
「このルールが対象となるのは、全世界の売上が200億ユーロ超(日本円だと1ユーロ130円として2.6兆円ぐらいでしょうか)で、かつ利益率が10%超の多国籍グループなのですが、御社のグループ売上は2.6兆円を超えますかね?御社はBEPSの最終親会社等届出事項やマスターファイルを提出していますので、グループの総収入金額が1,000億円を超えているのはわかっていますが。2.6兆円となると相当な規模ですよね。」
「そうですね・・・。確か前回本社に聞いたときに、グループ売上は3,000億円ぐらいだった気がします。そうなるとうちは関係ないですかね。」佐々木さんは少し安心した表情をした。
「なるほど。それでしたら、第一の柱の適用はなさそうですね。良かったです。因みにもし、対象企業だとしたら、ローカルで100万ユーロ(日本円だと1億3,000万円ぐらいですが)以上の収入があると、そのローカルに課税権が認められるようです。その場合、多国籍企業の売上の10%を超える部分(超過利益)の25%相当額をローカルの収入に応じて配分されると決まっています。」リノは頭の中で整理しながら説明した。
「因みに現在は全世界の売上が200億ユーロ超の多国籍企業が対象となっているので、非常に限られた大企業が対象となりますが、2030年には100億ユーロ超に基準が引き下がることになっていますので、その時には対象となる企業が増えるのでしょうね。この規定は2022年中に多国間条約が署名され、2023年から実施予定になっていますので、継続注視する必要がありそうですね。」リノは一息つきながら佐々木さんが入れてくれたコーヒーに口をつけた。
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発行者:坂下国際税理士法人