第16話:国境を越えた電気通信利用役務提供に係る消費税_vol.1

国際税務の最前線を紹介する
「Rino's Tax Diary」

第16話:国境を越えた電気通信利用役務提供に係る消費税_vol.1

「毎日暑いですね。今日も35度越えらしいですよ。」そう言いながら川北さんが会議室のドアを開けて入ってきた。今日は月次のBook reviewのため、朝からUS系のソフトウェア会社に来ている。
「早速いいですか?」川北さんはそう言いながら続ける。
「そういえば、最近知ったのですが、数年前からUS本社が日本のエンドユーザー向けにソフトウェアの直販をしていたらしいんです。これって何か影響ありますか?クロスボーダーの役務提供は消費税がかかるとか何とか聞いたような気がしたので・・・。」
「御社はこの取引に関係しているのですか?」リノはすぐに質問した。
「いいえ、うちは日本の子会社ですが、この取引はあくまでもUS本社の事業なので、全く関与していません。USサイドでいくら売り上げているかも全くわからないんですよ。そのため、こっちには何の情報も入ってこないですね。USの通販サイトを見るとダウンロード販売しているみたいなんですけど。」川北さんはすぐに答えた。
「そうするとエンドユーザーが直接USの通販サイトからソフトウェアをダウンロードしてUSへ代金を支払うという取引なんですね。通販サイトは英語なのですか?」リノは確認した。
「通販サイトは英語と日本語があります。US側で日本語サイトも作成しています。いずれにしても我々は全く関与していないので、うちは関係ないですよね。」川北さんは確認した。
「確かに御社が何の関与もしていないのであれば、御社としては何も処理する必要はありませんね。」リノは続ける。「ただ、US側としては日本で申告する必要があるかもしれません。因みに直販の売上は年間どのくらいありますか?」とリノは聞いた。
「こちらに詳しい情報は入ってこないのですが、USの同僚がこの前ちらっと直販売上が絶好調らしく、インセンティブを多くもらえるかもという話をしていましたね。その時、ここ数年は年間売上が2,000万円ぐらいで毎年30%増とかなんとか言っていたような気がします。」川北さんは思い出すように言った。
「なるほど。今回の直販取引は、消費者向けの「国境を越えた電気通信利用役務提供取引」と言って、消費税は課税取引になります。結論から言うとUS本社は日本の税務署へ消費税の申告をする必要がありますね。」リノは言った。
「えっ、そうなんですか。US本社は今まで日本で申告したことなんてないですよ。どうやって申告するのですか?」川北さんは慌てた。
「US本社は日本に事業所がありませんから、納税管理人を立てて消費税の申告書を提出することになるんですよ。」リノは説明を続ける。「日本のエンドユーザーから入金された取引が課税取引になりますので、売上に係る消費税を申告する必要があるということになります。もちろん、課税仕入れがあれば控除できますが、おそらく原価関係は国外取引なので、不課税になるかと思いますので、実質的には売上に係る消費税を納税することになるかと思います。」リノはできるだけわかりやすく説明した。
「う~ん、だいぶ複雑ですね。本社はわかっているのかな~。今のところ納税管理人になってくれとかいう話は聞いたことないんですけど。本社サイドとしても、うちにこの直販取引については口を出してほしくないようなので、うちとしても触れないようにしているんです。」川北さんは不安そうに言った。
「まあ、御社が必ず納税管理人にならなければいけないことはありませんから、本社の方でどなたか納税管理人を選任すればいいと思いますよ。」リノは続ける。
「いずれにしても本社が日本で申告するには、まず税務署に自分はこれから日本で申告しますという申請書を提出する必要がありますね。以前は「登録国外事業者の登録申請書」というものを提出していたのですが、2023年10月1日以降に導入されるインボイス方式に伴って、今後は「適格請求書発行事業者の登録申請書(国外事業者用)」という申請書に代わりました。すでに本社が直販をしていて、「登録国外事業者の登録申請書」を提出して日本で申告しているのであれば、今回改めて「適格請求書発行事業者の登録申請書(国外事業者用)」を提出する必要はありません。一方、まだ登録申請書を提出していないのであれば、すぐに手続きした方がいいですね。因みに「適格請求書発行事業者の登録申請書(国外事業者用)」の提出は、2021年10月1日に解禁されていますので、今からすぐに提出できますよ。」
「わかりました。私の方から本社に伝えてもいいんですが、たぶん先生の方から直接言って頂いた方がいいと思うんです。色々細かい話をするのにうまく伝わらないと本社の方でも混乱すると思いますので・・・。」川北さんはリノにお願いした。
「わかりました。それでは事務所に戻ったらメールで本社のCFOに説明します。川北さんにもCCに入れますね。」リノはそう答えながら、「消費税は年々厄介になってきますよね。私どもも毎年改正点をおさえるのに大変なんです。」と言ってすっかり冷めてしまったコーヒーをすすった。
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発行者:坂下国際税理士法人