第9話:外国法人日本支店における給与の源泉_vol.1

国際税務の最前線を紹介する
「Rino's Tax Diary」

第9話:外国法人日本支店における給与の源泉_vol.1

リノは朝から気が重い。というのも今日から2日間、源泉所得税の調査が入っており、リノは調査の立会をすることになっているからだ。今回の調査対象会社は、ドイツ系のIT企業の日本支店。日本には外国人が2、3人いるだけで、日本人は誰もいない。その外国人の従業員は全員SEなので、基本的には日本のお客様の所へ行って現地で仕事をしているため、ほとんど支店には常駐していない。そのため、秘書つきのレンタルオフィスを契約している。今日から2日間は調査官が来るので、レンタルオフィスの会議室を終日借りきってもらっている。
リノは調査の前日、事前の打ち合わせのためにクライアントの事務所へ行き、提出する資料をチェックしていた。一通りの確認作業を終えた後、リノはクライアントに一般的な税務調査の対応方法や調査開始直後に事業概要などを聞かれるので簡単に説明してほしい旨を伝えた。
そしていよいよ当日。調査官がやってきた。調査官は3名。気合いが入っていそうだ。調査中は日本支店の代表者である、ダニエルさんにも同席してもらうことになった。ダニエルさんはドイツ人で、日本支店の代表者と言っても日本語はほとんど話せない。そのため、事業概要を説明する時もいちいち通訳しなければならない。リノはできるだけ端的に通訳しながら、調査官の反応を伺っていた。
「こちらには外国人の方しかいらっしゃらないのですか?」早速調査官が聞いてきた。
「はい、そうです。」
「代表者が頻繁に変わっているようですね。前任者はどちらにいらっしゃるのですか?」
「後任者へ引き継いだ後は、本国に帰っていますけど。」
「なるほどね。事業内容はソフトウェアの開発作業ね。どこで作業しているのですか?」
「作業はほとんど日本のお客様の所でやっていますので、支店にはほとんど誰もいません。」
「そうですか。では早速資料を見てみましょう。各外国人について出入国日のリストを出してくれますか。」そういいながら書類に手をのばした。
「そうそう、こういった外国人の給与はどこから支払われているのですか?」調査官は付け足した。
「現在は、日本で給与計算して源泉所得税など把握しています。それを本店へ報告し、本店が外貨で各従業員へ支払っています。」リノはそう答えながら、給与計算を早々に日本に切り替えてもらって正解だったと思った。
「そうですか。では、資料の中身を見てみましょう。」そういいながら調査官たちは机の上に積み上がった書類をめくり始めた。うち一人は賃金台帳、うち一人は外国人の出入国履歴を穴があくほど見ている。
やはり来たか。なかなか手ごわそうだな。リノはじっと調査の動向を見守っていた。(次号へ続く)
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発行者:坂下国際税理士法人