第22話:デジタル課税_vol5

国際税務の最前線を紹介する
「Rino's Tax Diary」

第22話:デジタル課税_vol5

リノは今月のBook reviewが完了したので、Wrap-upミーティングのため、佐々木さんに会議室へ来てもらうように依頼した。
ややあって佐々木さんがPCを抱えて入ってきた。
「先ほどはデジタル課税について、色々と説明してくださりありがとうございました。今日のWrap-upに入る前に少しだけデジタル課税の続きを話してもいいですか。」と佐々木さんは前置きして、
「なんだか一言でデジタル課税と言っても、ルールが多岐に渡っているのでわかりにくいですね。デジタル課税が我々事業会社へ与える影響をまとめるとどんな感じになりますか。」と聞いてきた。
「なかなかハードなリクエストですね。」リノはそう言いながら続ける。
「第一の柱では適用対象が、売上高200億ユーロ超で利益率10%超の多国籍企業グループ(資源関連や金融業を除く)のため、世界全体で100社程度に絞られると見込まれていますので、ほとんどの企業は対象外ということになると思います。仮に対象になったとしてもローカルへ配分される利益に上限が課されますので、ローカルでの課税額は一定限度に抑えられると考えてよいと思います。いずれにしても、第一の柱では税源の一部を多国籍企業の所在地国からローカルの市場国へ移転させるものですので、世界全体で税収を増加させるものではないと言えます。
また、第一の柱のもう一つの要素である、支店や子会社などの物理的な拠点がある場合の販売活動について利益算出方法を一定の方法に決めることについてですが、これはローカルに配分される利益の水準が高ければ税額が増加する可能性はあるかと思います。」リノはここで一息ついて、佐々木さんの反応を見た。佐々木さんは一言も聞き漏らさないように集中しているようなので、リノは続けた。
「次に第二の柱ですが、これは従前タックスヘイブンに所在する子会社への利益移転によって課税逃れしていた事象について網をかけたものですので、実質的な増税と考えてよいかと思います。ただ、タックスヘイブンに設立した子会社への利益移転による課税逃れの場合に限らず、進出先の国で実態のある事業を行っていて優遇税制を適用された場合も、一定の控除はあるものの上乗せ課税の対象となることは留意する必要があると思います。
外資系企業の日本子会社側として当面留意した方が良い論点としては、第一の柱の2番目の項目、「物理的な拠点がある場合の販売活動について利益算出方法を一定の方法に決める」という内容と、第二の柱の2番目の項目、「利子や使用料の支払先の国の法人税率(表面税率)が9%以下の場合」の2項目かと思いますが、いずれにしても今後決定される内容も多いので、また動きがあったらお知らせします。」リノは一通りの説明を終えた。
「なるほど。まとめて頂いてありがとうございました。おかげで全体像は理解できました。」佐々木さんはそう言って、「では早速Book Reviewのフィードバックに入りましょう。」と続けた。リノは少し休憩をとりたいなと思いながら、鞄からペットボトルの水を取り出して半分ぐらい一気に飲み干した。
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発行者:坂下国際税理士法人