第10話:外国法人日本支店における給与の源泉_vol.2

国際税務の最前線を紹介する
「Rino's Tax Diary」

第10話:外国法人日本支店における給与の源泉_vol.2

「給与計算は日本でやっているんですね。」調査官は念を押してきた。
「はい。先程説明したとおり、日本で給与計算して源泉所得税など把握しています。それを本店へ報告し、本店が外貨で各従業員へ支払っています。」リノは即座に答えた。
「じゃあ、みなし納付の規定には該当しないのか・・・。」調査官は残念そうだ。
「ええ。そのあたりはちゃんと注意していますから。」リノは毅然と言った。

夕方5時。調査官が帰った後、クライアントにどの点が問題になったのかを説明した。
「日本支店の場合、本店と同一の会社なので、現地子会社の場合と取り扱いが異なるケースがあるんです。」リノはきりだした。
「従業員が日本で働いてその対価として給与をもらった場合、国内源泉所得に該当しますので、日本で課税されます。そして、その給与が海外払い、つまり本店から従業員に支払われる場合でも、その支払いは日本支店が行ったものとみなされるので、日本でその給与について源泉する必要があるんですよ。」
ダニエルさんはちょっと怪訝そうだ。
リノは自分の英語の説明がわかりにくかったのかなと思いながら、図を描いて補足した。
「つまり、日本支店があるというだけで、給与がどこから支払われようが日本で源泉しないと問題になる、ということなんです。御社の場合、早い段階で給与計算を日本に切り替えましたので、こちらで給与計算する際に源泉税を計算して納付していますよね。だから今回の調査では問題にならなかったんです。これがもし、給与計算を本店でやっていて、本店から従業員へ給与を直接支払って、日本支店側にいつ払ったのか何の連絡もなかったら、日本で源泉税をとることはできないですよね。そうなると、日本支店として源泉徴収もれになってしまって問題になるところだったんですよ。」
「ちょっと待ってください。質問してもいいですか。」ダニエルさんがリノの説明を止めた。ダニエルさんは続ける。
「でも、その給与をもらった従業員が日本で確定申告すればいいんじゃない?源泉をとられなかった分、確定申告する時にその分だけ税金が多くなるから。」
「最終的には、給与に対する税金は同じになりますが、法律上、本店が支払った時に日本側で源泉徴収しなければならないと決まっているんです。ちょっとわかりにくい規定なのですが。だから、給与計算を日本でやっていたのがよかったんです。」リノは答えた。
「ふうん、OK。わかった。じゃあ結論としては、うちの処理は正しかったから問題ないってことだね。」ダニエルさんは結論付けた。
「そういうことです。こういう問題は外国法人の日本支店に起こりうる問題です。現地子会社だったらこういう問題は生じないんですよ。」
「なんだか複雑なんだね。」ダニエルさんも、ちょっとほっとしたようだった。
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発行者:坂下国際税理士法人